✨生き神✨

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 ✨生き神✨

     眼の前に広がる海原は、北西から吹き込む風に煽られ、白い飛沫をあげる荒れ模様だった。  東南の山々の頂きから、薄い黄金色に輝く太陽の暖かな光がそれを照らし、 飛沫は風と共に、薄い金色した砂が吹き飛んでいるようだった。  山々の手前にある、大きな煙突に見えるタイ山の肌も、その上の空も染めていった。  遥か遠く北西の空は、少しくすんだ藍色になり、 海上に広がりを見せる雲は、様々な形に広がっては重なりながら、風に乗ってこちらへ迫ってくる。  様々な雲の縁も薄い黄金色に輝きはじめ、その下には、 米粒ほどに小さく見える、一羽の鳶が、独特な甲高い鳴き声をあげて舞っていた…  やがて四方からも、別の鳶達も集まり始めた。  砂浜を、西の方から、大と小の〈焦げ茶色した塊〉が歩いてきた。  近付くその二人を良く観ると、焦げ茶色に見えたのは、木の樹皮を使った分厚い寛頭衣だとわかった。 胴の部分は、太い麻紐が巻かれ、 寛頭衣のあちこちは、長年の着用によるものだろう、所々のほころびが、 毛のように風にチロチロとなびいていた。  二人は、風に飛ばされる髪が、顔にまとわりつくのを嫌い、手でかきあげている。  大きい人は、右手に細い竹竿を担ぎ、その柄は、使い込んで光っていた。  竹竿の先には、縄で編んだ網袋を下げ、中には様々な魚が入っていた。  小さい人は、隣の大きい人の髭面に浮かんだ喜んでいる表情を見上げ…、 次に、大きく広がった空を観た。薄い灰色と薄い青と、薄い金色の混じる朝の空は美しいと思った。  空の五つの鳶達は、少しずつ大きく旋回しながら高度を下げていた。  小さい人は、その鳶達の姿を見て、鳴き声を聞き、 自分達の歩む先を目を凝らして見ると…  ( なんな? あれは… )  と、小さい人は、砂浜の向こうに見える何かを見つけ、大きい人の手を離して走った。  
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