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「りーぃん」
まばらに生徒達の残る放課後の教室。
突如、語尾にハートマークが付いたような甘い声で名前を呼ばれる。
その方を振り返った凛――長谷部凛の目に飛び込んできたのは、満面の笑みを湛えた日向――結城日向の顔だった。
「な……何?」
彼女の笑顔にそこはかとなく嫌な予感を覚え、及び腰でおずおずと聞き返す凛。
すると凛の肩を抱き寄せた日向が耳元にそっと唇を近付けてきた。
不意に彼女の吐息が耳にかかり、要――片山要にそうされる時とはまた別の意味で肩が揺れる。
が、日向の顔にはそんな事お構い無しとばかりに、にんまりとした妖しい笑みが浮かんでいた。
「……あんた。鉄仮面とヤったでしょ」
声にならない悲鳴とはこの事なのか。
驚きの余り声を上げる事もできない凛は、ただでさえ近くにある相手の顔を物凄い勢いで見やった。
しかし、日向に肩を掴まれ浮かびかけていた腰を椅子に据えられると、身動きが取れなくなったその顔は耳まで真っ赤に染まっていく。
そんな中、今の話を誰かに聞かれたのではないかと、動揺する凛の視線が教室に残っていた自分達以外の数名の生徒へと向けられる。
幸い、日向のそれは周りの誰にも届いてはいなかったようで、安堵すると同時に上手く言葉にならない乾いた声が凛の口を空回りさせた。
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