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シーム卿はズキズキと痛む胸を押さえ、床に座り込む。
「…助かったよ…ビルフォニア」
「私は貴方を助けたつもりは毛頭ない。
リュヌ様の眠りを妨げたくなかっただけよ」
ビルフォニアは静かに立ち上がると、シーム卿にハンカチを差し出す。
意味が分からないシーム卿は、ポカンとした表情でビルフォニアとハンカチを交互に見つめた。
「…これは?」
「見て分からない? ハンカチよ」
いや、それは分かる。自分が聞きたいのは…
「何故、私に?」
「頬にも血が飛び散っているわ。
汚して構わないから、それで拭きなさい。
その後、着替えると良いわ」
じゃあね、と言い、ビルフォニアは寝室に帰っていく。
シーム卿は暫く渡されたハンカチを見つめ、やがて両手で握り締める。
「…ありがとう、ビルフォニア…」
やはり、お前は私の全てだ。
「必ず助けてあげるよ…」
シーム卿はハンカチを大切そうにポケットに仕舞うと、着替えを持って浴室に入って行った。
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