裁判

7/28
53086人が本棚に入れています
本棚に追加
/634ページ
シーム卿はズキズキと痛む胸を押さえ、床に座り込む。 「…助かったよ…ビルフォニア」 「私は貴方を助けたつもりは毛頭ない。 リュヌ様の眠りを妨げたくなかっただけよ」 ビルフォニアは静かに立ち上がると、シーム卿にハンカチを差し出す。 意味が分からないシーム卿は、ポカンとした表情でビルフォニアとハンカチを交互に見つめた。 「…これは?」 「見て分からない? ハンカチよ」 いや、それは分かる。自分が聞きたいのは… 「何故、私に?」 「頬にも血が飛び散っているわ。 汚して構わないから、それで拭きなさい。 その後、着替えると良いわ」 じゃあね、と言い、ビルフォニアは寝室に帰っていく。 シーム卿は暫く渡されたハンカチを見つめ、やがて両手で握り締める。 「…ありがとう、ビルフォニア…」 やはり、お前は私の全てだ。 「必ず助けてあげるよ…」 シーム卿はハンカチを大切そうにポケットに仕舞うと、着替えを持って浴室に入って行った。 .
/634ページ

最初のコメントを投稿しよう!