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序章
僕は、決められたレールの上を外れることなく歩んできた。
父はこの辺りでは一番の大病院の院長だったし、兄もこの春から医大に通っている。
だから、僕が医学界に身を置くことは当たり前のように決められていて、僕も又、それに逆らうことは無かった。
「おいたん」
制服の袖を引っ張られると同時に、舌足らずな声が聞こえた。
僕は声の主を見下ろしてから、その場にしゃがみ込んだ。
こうしないと小さな彼女に目線を合わせられないのだ。
「日菜子。おいたんは酷いな。僕はまだ高校生なんだよ」
「……?」
5歳児に言い聞かせる僕。でも、やっぱり分からないみたいだ。きょとんとした表情で僕を見てる。
「せめて、お兄さん、……違うな、輝秋って呼んでよ。僕は君の婚約者なんだから」
「てる、たん」
「ちょっと違うけど……それでいいよ。で、何だい、日菜子?」
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