2/10
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
指の先を矢に添えて、腕を思い切り後ろに引く。 まっすぐに狙いを定めた。 心地よい緊張の中、ゆっくり息を吐いた。 目指すはあの少女の左胸。 手を離した。 矢は空を切り裂く。 矢が少女の心臓を貫いた途端に、長いまつげをたずさえた大きな瞳がこちらを見た。 私の隣に立っていた少年は、驚いたように目を見開いて顔を赤くする。 あとは自分で頑張れ、純情少年よ。 私はそっと弓をおろすと、純白の羽を振るった。体がゆったりと浮き上がる。 頭の上の輪っかが揺れるのを感じた。 雲へ飛び立つ。 熱をはらんだ風が肌をなでるのが心地よい。 ひざ丈まである、ちょうどワンピースのような白服がなびいた。 「……はじめ、まして」 強張った幼い少年の声が背後から聞こえて、私はそっとそちらに目を向けた。 耳まで赤く染めた少年が、まっすぐに少女を見つめている。 きっと彼の喉は、からからに乾いていることだろう。 蝉が激しく鳴きたてている。 熱い太陽は二人の身を焦がそうとするかの如く、さんさんと照りつけた。 いいねえ、青春。 ついついにんまりとした笑みをこぼしてしまう。 少女の心臓に少年の熱を伝えた矢が、ゆっくりと雲散するのを見ながら思う。 これは私の天職だ。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!