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これは小さな小さな村での話。
気の弱い少年トキは、元気な少女サヤとボール遊びをしていた。
「行くわよ~それ!」
サヤが蹴ったボールはトキの頭上を越え、古い民家に入ってしまった。
「あーあ。トキがちゃんと取らなかったから入っちゃったじゃない!」
「…サヤが強く蹴るからだよ」
トキは、サヤに聞こえないくらいの声で反論した。
「取ってきて!!」
「入って大丈夫かなぁ」
その家は立派な佇まいだが、門が固く閉ざされていた。
「大丈夫よ!どうせ誰もいないでしょ」
確かにいつもこの近くで遊んでいるが、一度も人を見かけたことがない。トキは仕方なくその家の中に入っていった。
外は日が出ているのに家の中は薄暗く、じめじめしていた。床を踏むとギシギシと音がし、その度にトキはビクビクしていた。
「お邪魔しまぁす…」
返事が返ってこないことを祈りながら、家の奥へ進んでいく。
「あ、あった」
ボールは縁側でうっすらと差し込む日に当たっていた。
「…?」
ボールを拾い上げた瞬間、トキの耳に小さな歌声が聞こえた。
「…気のせいだよね」
気のせいであってほしい。
しかしトキの願いもむなしく、その声は近づいてくる。
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