―病の名は―

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忘れろなんて言える筈がない。他でもない総司が、雪斗の友を殺してしまったのだから。 総司から、新撰組から雪斗を離したのは稔麿。だが、雪斗が今こうして此処にいられるのは、稔麿のお陰でもある。 何よりも雪斗の心を守り、沢山の想いを注いだ。総司が知らない空白の時間。無理に話せとはいわない。 他ならぬ、雪斗には、総司が人を殺す瞬間など見せたくはなかった。あの時の雪斗を、忘れられない。 憎悪の籠もった瞳で総司を睨み付け、斬りかかろうとした。稔麿が止めていなかったら、間違いなく斬られていただろう。 それからは、よく覚えていなかった。気付いたら土方と雪斗が斬り合いを始めていた。雪斗という名を与え、今も色濃く心の中に住んでいる稔麿に、少しだけ妬いた。 「私が…どんなに濃く手を血で染めても、沖田さんは私の手を握ってくれますか?」 「あたりまえですよ」 せめて出来ることといったら、雪斗を不安にさせないことだ。何があっても、絶対に裏切らないという確信を与えること。 「それなら、私は大丈夫です…」 なんて残酷な道を歩かせているんだろう。逃がしてやることも、もっと別な、普通の生活に戻すことも出来たかもしれない。だが、それをしなかったのは…。 「私は、ずるいですね」 「え…?」 「あなたが、私を裏切れないと、わかっていてこんなことを訊いてしまう」 雪斗にとって、総司は絶対。何があっても雪斗は総司を裏切らない。そんな確信があった。雪斗はその言葉を訊き、少し笑って総司の頬に手を伸ばした。 「いいですよ。ずるくて。私、どんな沖田さんだって、ちゃんと好きですから」 こうして、何でも許してしまうから、どうしても、この優しさに甘えてしまう。全てを包み込む優しさに、ついつい甘えて、雪斗を苦しめてしまう。 .
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