熱中症

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   私の医者人生に小石を投げ付けたのは暑い暑い夏の日だった。  私はといえば、院内は冷房が効いており外界の暑さなどどこ吹く風で悠々と過ごしていた。外を見れば熱せられたアスファルトに水溜まりが見えたりするくらいにまでなっており、私としては一切、一歩たりとも外に出たくなかった。実際出なかった。 「先生、急患です!」  看護士の甲高い声が響いた。 「容態は?」 「体温が高く、脱水症状を起こしています」 「なるほど、わかった。診てみよう」  私は患者の元へ向かった。  患者は小太りな男性で、細かいチェックのシャツを着ていた。 脇の下は汗染みで色が変わっており、お世辞にも異性に好まれるようなタイプとは言えなかった。 「熱中症か。このくらいなら応急処置くらいでなんとかなるんじゃないのか? なぜわざわざ運ばれてきたんだ」 「それが……ちょっとおかしいらしいんです。詳しくはよくわからないんですが――」  看護士がそこまで言うと、患者の男性が急に起き上がった。
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