第四章 自由の味

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渡部の意味深な言い方につぐみは眉をひそめる。 「確かに、お嬢様はずっとご主人様の言う通りになさってきました。時にそれは苦しかった事と思います。ご主人様が亡くなられた今、もしかすると解放された様な気分になられたのでしょう。しかしそれは不謹慎というものです。」 「何がわかるの?」 「私はご主人様とお嬢様、どちらの心境も理解できるからこそ、今はまだ静かになさっておいて欲しいのです。」 「あなたもお父様みたいにあたしを閉じ込める気?」 「いえ、しかし今は…」 「うるさい、そんな話聞きたくないわ。この家に居るのはもうあたしと翼だけなの、お父様はあなたを気に入ってたけどあたし達も同じかどうかなんてわからないでしょう?それでもあなたはいまだに死んだお父様の味方なのかしら?」 脅しをかける様につぐみは言うと、渡部は苦い表情を浮かべた。 「いえ、それは…」 「お風呂にはじきに行くから部屋から出ていってちょうだい。」 渡部はつぐみに頭を下げると静かに部屋を出た。 みんなしてあたしを苛めるなんて、最低の連中だわ。この家で信頼できるのはやっぱり翼だけね、あたしの言うことは何でも聞くし。それにしても志津里さんに会いたい、あのネクタイきっと似合うわ…つぐみは手に入れた自由という名の甘い蜜を好き放題に吸っていた。しかし、この時つぐみは甘い蜜には大きな代償が待っている事を知らなかった。
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