悲しみの連鎖を

2/13
2530人が本棚に入れています
本棚に追加
/288ページ
 顔を上げると、目の前の席には木崎くんがいる。  彼が動くたび、白いシャツがまぶしく光る。  ふりかえる。  笑う。  困ったような顔をする。  そのいちいちが恋しくて愛しくて、私の胸はぎゅっと縮む。  教室で目にする限り、木崎くんは元気そうに見えた。  でも、ずっと元気なふり、平気なふりをしてきた彼が、意識的無意識的にそうしているのだということを、私は知っていた。  さよなら 以来、木崎くんと学校外で会うことはもうない。  だからといって、教室でまでよそよそしいわけではなく、私たちはときには話し、ときには笑った。  木崎くんは相変わらず忘れ物をするし、ときおり子どもみたいな目をしてすねる。  そばにいたい。じかにふれて抱きしめたい。  自分で決めたことなのに、私はよくそういう気持ちになった。  木崎くんに、私の思いが伝わったのかどうか、自信があるわけでもない。  それでも、離れたことで何かが変わるのだと信じたかった。  だって、寂しくても悲しくても、私たちは生きていかないといけない。 「葉月ちゃーん‥ こっちこっち、ここだよー」  清澄な空気漂う 秋晴れの昼休みだった。  提出用のノートを手に廊下を歩いていると、どこからともなく明るい声が聞こえ、私は振り返った。  辺りを見回すと、斜め向かいの校舎、音楽室の窓から沢田さんが顔を出し、手を振っているのが見える。    笑って小さく手を振り返すと、彼女は嬉しそうに手招きをした。 「葉月ちゃん、時間あるならここに来てー‥」  沢田さんの後ろには、彼女と仲のよい数人の女の子の姿も見えた。  ここ最近、よく話しかけてくる子たちだ。  いつもそろって楽しそうで、あふれるように笑い、話す。 「待ってて。ノート出したらすぐ行くね」  笑顔で答えると、私は急ぎ足で先生のもとへ向かった。image=272660667.jpg
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!