夕弥

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「この先は行き止まりですよ」 でも敢えて言わない。 何故ならそれを愉しむのが迷路だから。 出口から迷路を振り返ると、案外仕組みは幼稚で小さかったりもする。 迷う事がゲーム。何て悪趣味。見事にハマった。 でも迷路を抜け出した今、世界は夕弥の目にはとても広く素晴らしく見える。 宇宙のように無限に澄む幸せに涙しそうになる。 人は絶対に、一人では生きて行けないのだ。 美雨がここまで連れてきてくれた。 「迷路の出口はここだよ、一緒に出ようよ」 あの日、涙をぼろぼろと零しながら、真っ赤で、でも強くてたくましい目で言ってくれた姿を永遠に忘れない。 ありがとう。 「 本当に永遠に離さないよ」 耳元で囁くと、んん…?目を覚ました美雨が「 いま、何か言った?」と訊く。 「 愛してるよ、って言ったの」 頬を撫でるとすぐに返ってくる。 「私も愛してるよ 」 愛しく美しい、強くて不思議な女性は笑顔で言うから、また夕弥の命は動き出す。
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