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「……今の僕は、帰宅に一苦労しているサラリーマン……と。」
誰にでもなくアスファルトの道中で呟くと、何となく空しく感じる。
辺りを見渡して、今の独り言が誰かに聴かれていないことを知ると、ほっと一息。
大人として、周囲にみっともない姿は見せたくないものだ。
「…………」
自分が何者かなんて疑問はこの年になってするもんじゃないな、と今年二十五になろうとしていた牧山は思った。
帰り道があまりにも白一色に染め上げられていたためか、それとも歩く度に革靴が雪にめり込むのに辟易してきたのか。
「……うわ、ズボンびしょびしょ……」
いずれにせよ定時に帰れたのは久方ぶりで、辺りを包む夕日が眼に鮮烈に写る。
コンクリートジャングルだなんて揶揄される都会だが、雪が積もった後の景色はなかなか圧巻なもの。
積雪に紅い日光が反射され、一面がキラキラと光る。
“映える”という単語はこういう状況から理解できそうだ。
「!……うう、さぶっ」
風が吹いてきたのを、スーツの上に羽織ったコートを閉めて抵抗する。
けれど彼のネイビーブルーのコートは如何せん厚みが無いので、風に運ばれてきた寒気を防ぎきるには至らない。
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