香月

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★ 「于吉仙人……」  白髪におおわれた老人の姿をみて孫策は嫌悪を露にした。  あたりは闇色なのに、白い老人が明るく浮かび上がっている。 「なぜ、いる。また忠告…か?」  そなたは死ぬ、あの女に願いをかなえてもらったのだから。  それがどうしたと言うのだ。  ――わしがおぬしを助けてやろう。  な!  ――社稷が現の姿をしている間に腸を抉るのだ。そうすれば社稷は死に、お主は助かる。  冗談じゃない! どうして俺が一番愛おしいと思う女を殺さなければならいんだ! そのあと、孫策は于吉を殺した。  けれど殺したのに、目の前にいる。  そして  大喬を殺せという抑揚のない声が孫策の耳にはいる。  殺せ「うるさい」殺せ「うるさい……」殺せ! 「おおおおおお!」 孫策は寝台から身を翻し、太刀をもって于吉にふりかざす。だが于吉は揺らりと煙りのように消えてしまう。 「くそ!」  孫策は于吉のあとを追った。  時には瓶に化け、紗の幕に化け、とうとう騒ぎに気づいた従者が中にはいり孫策をとめた。 「おやめください」 「はなせ! 于吉を……于吉を倒さなくては大喬が!」 「于吉は先日処刑されたばかりではありませんか? どこにいると申されるので す!」  孫策は落ち着いてあたりをみまわす。  部屋はめちゃくちゃに荒れていて。 「おれ…は」 「落ち着きましたか?」  孫策は力なくその場にへたり込んだ。
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