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「于吉仙人……」
白髪におおわれた老人の姿をみて孫策は嫌悪を露にした。
あたりは闇色なのに、白い老人が明るく浮かび上がっている。
「なぜ、いる。また忠告…か?」
そなたは死ぬ、あの女に願いをかなえてもらったのだから。
それがどうしたと言うのだ。
――わしがおぬしを助けてやろう。
な!
――社稷が現の姿をしている間に腸を抉るのだ。そうすれば社稷は死に、お主は助かる。
冗談じゃない! どうして俺が一番愛おしいと思う女を殺さなければならいんだ!
そのあと、孫策は于吉を殺した。
けれど殺したのに、目の前にいる。
そして
大喬を殺せという抑揚のない声が孫策の耳にはいる。
殺せ「うるさい」殺せ「うるさい……」殺せ!
「おおおおおお!」
孫策は寝台から身を翻し、太刀をもって于吉にふりかざす。だが于吉は揺らりと煙りのように消えてしまう。
「くそ!」
孫策は于吉のあとを追った。
時には瓶に化け、紗の幕に化け、とうとう騒ぎに気づいた従者が中にはいり孫策をとめた。
「おやめください」
「はなせ! 于吉を……于吉を倒さなくては大喬が!」
「于吉は先日処刑されたばかりではありませんか? どこにいると申されるので
す!」
孫策は落ち着いてあたりをみまわす。
部屋はめちゃくちゃに荒れていて。
「おれ…は」
「落ち着きましたか?」
孫策は力なくその場にへたり込んだ。
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