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太乙真人は考えた。
(確かにナタは物知らずな事から、誤って敖丙を殺してしまった。しかし、これも天命というもの。敖光は竜の中の王で雲や雨を司る身、天帝の定めた気数を知らぬ訳もなかろうに、この様な小事で天庭を騒がすとは、どうりをわきまえぬ奴だ!)
そして、ナタを呼ぶ。
「ナタ、おいで。衣を解いて胸を出しなさい」
そして、指でナタの胸に道符を書いた。
「よいか。天の宝徳門(ホウトクモン)に行ったら、これこれこの様にするのだ」
と、細かく言い聞かせる。
「いいな、事が終わったら陳塘関へ戻り、お前の父母に言うのだ。もし、事が起こったとしてもこの師父がおる、決して貴殿方には迷惑はかけないとな」
「はいっ!」
すっかり元気になったナタは乾元山を離れ、その足で宝徳門に来た。
天宮の景色はまさに非凡で、紫雲や赤雲が碧空(ヘキクウ)をおおっていて、下界とは全く様子が異なっていた。
時間が早かったのか敖光の姿は見えない。天宮の各門もまだ開いてない。
それで、聚仙門(シュウセンモン)の下に立って敖光を待つ事にした。
しばらくすると、敖光が朝服をまとい、慌ただしく南天門にやって来た。
しかし、南天門はまだ閉まっている。
「早すぎたか。黄巾力士(コウキンリキシ)がまだ来ていないようだ。仕方が無い、ここで待とう」
ナタからはその敖光の姿が見えるが、敖光にはナタが見えない。
太乙真人がナタの胸に隠身符(インシンフ=身隠しの秘文)を書いた為、敖光にはナタの姿が見えないのだった。
ナタは、敖光が待っているのを見ているうちに怒りが込み上げてきて、我慢が出来なくなった。そこで、つかつかと歩み寄るなり、突然手中の乾坤圏で敖光の首をがっと打った。
敖光はたまらす前へつんのめって倒れる。
ナタは、そのまま敖光の背を踏みつけた。
━続く━
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