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それは、昔の記憶だ。
少年が苦手な家を飛び出してから一週間あとの出来事。
嵐の晩。
その日は海は荒れ、海に浮かぶ客船は大きく揺れていた。
激しい潮騒。
大きい波が甲板を濡らす。
空を深い闇が包み込み、太陽の光をすべて遮断していた。
重く立ち込める暗雲。
そこを縦横無尽に走るのは、巨大なドラゴンみたいな稲妻。
ごっ!と火を吐くような音が聞こえる。
乗客達は部屋から出ずに、じっとしている。
部屋の中で願う。
はやく嵐が過ぎることを。
木葉のように揺れている船。
甲板に出ることはほとんど自殺行為に思える。
下手したら、船から投げ出され、深い闇としか表現できない海の中に消えることになる。
そうなれば間違いなく助からない。
泳ぎが上手な人でも。
それなのに。
海水ですべって足場が悪い甲板に少年は居た。
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