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黒雲広がる世界の中、細いレイピアで戦う君の姿に『心』を射抜かれる。
‐*‐
「覚悟しなさい!
この世界が清純なるものとなったとき、私のレイピアは貴方を討ちます」
「かまわないよ。あ、後ろ気をつけて」
彼女の背後を指差し、危険を知らせる。
しかし、そんな俺の気遣いを無用というように、手に握っていたレイピアを彼女は背後に突き立てた。
花が散るように淡く飛び散る血液。
刺しぬかれた傷跡を手で押さえ、痛みに顔を歪める煩悩にまみれた同属。
そして「それ」はよろよろと離れてゆき姿を消す。
ここは『魔界』異形と堕落したもの、堕ち逝く先。
「君も天使のくせに猛っているよね」
「これは神が与えた試練。
私はこの世界に堕ちようとも、清純なる世界の為にこの力を示します」
血に濡れた刀身を掃い、天上に向ける。
まるで彼女を慰めるように生温い風が吹く。
彼女の首になびく絹のような髪を、ただ俺は呆然と眺める。
穢れていない白い肌に感じるものは、君の嫌う欲情に似ていた。
しかし、君は知らない。
「でもこんな事をしても神様は君を助けないよ」
「天使が救いを求めるのは可笑しいわ。
天使は救う立場なんだから」
クスクスと笑い、悪魔である俺に微笑む彼女。
美しい容姿には天使である証拠に翼が存在した。
「でも、いつか君が消されちゃうよ?
煩悩に狂ったやつを元の悪魔に戻す為とは言っても、君って結局殺さないし」
「悪魔といっても皆が悪いってわけじゃないでしょう?
それに殺すのはもう嫌よ……」
元は神に反逆した天使を殺す為に魔界に降りた彼女。
しかし、その役目を果たせず結果的に「狩る者」から「狩られる者」となった。
なんと、憐れ。
なんと、惨め。
それでも彼女は神を恨まず、自身を苛まない。
だから今でもその白い翼は穢れない。
なんと、美しい。
なんと、愛しい。
だから俺は彼女に惹かれる。
「私が討つのは煩悩のみ。
存在を奪う権利はないわ。それより貴方は大丈夫なの?
悪魔から見れば私は敵でしかないのに、貴方は私の傍にいて恨まれない?」
自分の立場が危ういくせに俺を心配する。
本当に危ういのは、君。
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