悪魔と天使

2/3
396人が本棚に入れています
本棚に追加
/305ページ
黒雲広がる世界の中、細いレイピアで戦う君の姿に『心』を射抜かれる。 ‐*‐ 「覚悟しなさい! この世界が清純なるものとなったとき、私のレイピアは貴方を討ちます」 「かまわないよ。あ、後ろ気をつけて」 彼女の背後を指差し、危険を知らせる。 しかし、そんな俺の気遣いを無用というように、手に握っていたレイピアを彼女は背後に突き立てた。 花が散るように淡く飛び散る血液。 刺しぬかれた傷跡を手で押さえ、痛みに顔を歪める煩悩にまみれた同属。 そして「それ」はよろよろと離れてゆき姿を消す。 ここは『魔界』異形と堕落したもの、堕ち逝く先。 「君も天使のくせに猛っているよね」 「これは神が与えた試練。 私はこの世界に堕ちようとも、清純なる世界の為にこの力を示します」 血に濡れた刀身を掃い、天上に向ける。 まるで彼女を慰めるように生温い風が吹く。 彼女の首になびく絹のような髪を、ただ俺は呆然と眺める。 穢れていない白い肌に感じるものは、君の嫌う欲情に似ていた。 しかし、君は知らない。 「でもこんな事をしても神様は君を助けないよ」 「天使が救いを求めるのは可笑しいわ。 天使は救う立場なんだから」 クスクスと笑い、悪魔である俺に微笑む彼女。 美しい容姿には天使である証拠に翼が存在した。 「でも、いつか君が消されちゃうよ? 煩悩に狂ったやつを元の悪魔に戻す為とは言っても、君って結局殺さないし」 「悪魔といっても皆が悪いってわけじゃないでしょう? それに殺すのはもう嫌よ……」 元は神に反逆した天使を殺す為に魔界に降りた彼女。 しかし、その役目を果たせず結果的に「狩る者」から「狩られる者」となった。 なんと、憐れ。 なんと、惨め。 それでも彼女は神を恨まず、自身を苛まない。 だから今でもその白い翼は穢れない。 なんと、美しい。 なんと、愛しい。 だから俺は彼女に惹かれる。 「私が討つのは煩悩のみ。 存在を奪う権利はないわ。それより貴方は大丈夫なの? 悪魔から見れば私は敵でしかないのに、貴方は私の傍にいて恨まれない?」 自分の立場が危ういくせに俺を心配する。 本当に危ういのは、君。 、
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!