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しかしスタンは風のような身のこなしでそれを避け、車から出る。
「本ッ当、つれない男ね!」
拗ねたように唇を尖らせるウェンディに、スタンは苦笑した。
「2度も同じ手は食わねえよ」
「2度も私をフッた事、後悔させてやるわ」
きつい口調で言いながらも、ウェンディはどこか楽しそうに目を伏せながら車のエンジンをかける。
「……要塞はついに落とされたそうよ。厳しい戦いになると思うけど、気をつけてね……」
すでに車から遠ざかるスタンは背後からの声に振り返らず、片手を上げて返事をしたーーー
ーーー部屋に戻る頃、日付は変わっていた。
明かりは消されていたが、ベッドで眠る女の目に真新しい涙の跡が光っているのには気付いた。
スタンはソファーに寝そべり目を閉じる。
目的達成、理念達成の為の道具としてただ機械のように動いてきたスタンにとって、彼女は初めて自分から意思を示した存在となっていた。
だが自分は所詮駒であり、その意思を貫くにも限界があった。
できる事といえば彼女を脅かすもの、未来に立ちはだかる者を消す事くらいである。
彼女は世の中が平穏を取り戻せば元の生活に戻れる。
けれど自分は死ぬかもしれない。
だから知らなくていい。
自分の代わりなど、沢山いるのだからーーー
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