いつからか

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 ずいぶん長い間旅をしてきたように思う。いやいや、「旅」と思うのは私が今の私となったからに他ならない。以前の私ならそんなことなど思いもしなかっただろう。なにしろ私にこうやって自我が発生したのは私がいまの私なってからなのだから。  気が付くとそこは人間が作った黒い地面の上だった。  周りには私と同じように自我を持ち始めたもの達が転がっている。しかし私達には自分で自分の身体を運ぶ手段がない。なぜなら私には動物のように手も足もないからだ。だからといってそのことを悲観的に思ったりはしない。先ほど「自我」とはいったもののそれは人間の言葉での表現の限界だ。人間にある感覚で当てはめれば「自我」という言葉以外適当なものがなかった。  だから自分達が「動けない」ことについて特に何も思ったりはしない。自由・不自由の概念がない…「私常」(しじょう)あえて言葉をつけるならこんな所だろうか。私は常にそこにある、だけどそれは絶対的なものではなく環境がそれを望むなら私達は常に移動し形も変える。  私がそうやって自分の存在を定義づけていると、さっそく環境が変わった。私は空を飛んでいた…と思ったらまた人間が作った黒い地面の上に落ちた。それを何度か繰り返しているうちに私は人間の子供が私を蹴飛ばしていることに気が付いた。私はこれまで色んな動物を見てきた。犬、猫、カラス、魚、そのどれもがこのようなことをして私を動かすことはしなかった。人間は他の動物と違って私達に興味があるのだな。
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