狂気

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俺は亜弓を手に入れたかった。 手に入らない亜弓が苛立たしくて亜弓から全てを奪った。 好きだった男、家族、友達、仕事。 全てを奪えば手に入ると思ったんだ。 俺の元へ墜ちてくると、そう…。 でも実際は違った。 亜弓は真実を知り俺を軽蔑した。 …当たり前だよな…。 全てを奪った男の元にくる女がどこにいる? …でも俺は…こんな結果を望んでたわけじゃない。 力づくで抱いて…泣かせたかったわけじゃない。 傷つけたかったわけじゃないはずだ。 亜弓を…。 そこまで考えて俺はハッとした。 「は…はは…」 乾いた笑いが口をついて出て来る。 …そうだったんだ。 何故…今更気付く? 何故もっと早く気付けなかった? そしたらこんなに亜弓を傷つける事はなかったのに―――。 ギシッ… ベッドにゆっくり腰かけ、そっと亜弓を拘束していたネクタイを解いた。 自由になった亜弓の手首には血が滲んでいる。 それを見た瞬間自分のした事に吐き気がした。 ――俺は人間ですらない。 最低だ…。 こみ上げてくる熱いものに唇を噛む。 泣くな。 泣くな。 俺は泣いていい立場じゃない。 亜弓を傷つけた俺に、泣く権利などありはしない。 疲れ果て死んだように眠る亜弓をそっと抱きしめた。
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