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――ガガッ。
黒い携帯電話が一瞬だけ振動した。
ボールペンを持った手が携帯を掴み、器用に開く。
「……」
都会のど真ん中にある高いビルの最上階。
そこにある、ガラス張りの広いオフィス。
そこに唯一存在する人間――彼は携帯の画面を見たまま、表情を変えずに止まっていた。
「――へぇ?」
その表情が変わった時、シンプルなグレーの机の上にあった電話が鳴り響いた。
彼は緩慢な動きでもう片方の手を伸ばし、スピーカーフォンボタンを押す。
『社長、例の案件なんですが――』
「あぁ、すぐ行く」
今度は素早くボタンを押し、開けていたノートパソコンを閉じた。
そして立ち上がると、銀色の扉を開ける――と同時に携帯電話も再び開く。
どうやら先程の振動はメールのようだ。
「こりゃ久々の同窓会、か」
――ぱちん。
電源を落とし、携帯電話を閉じると、ちょうど来たエレベーターに乗る。
「こんな再会は、望んでなかったよな……?」
小さな声は、エレベーターの中に飲み込まれた。
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