112人が本棚に入れています
本棚に追加
/911ページ
「何処だよ此処……」
シューレンの周囲に広がる風景はグラファリス王国領とは全く雰囲気が異なる、背の高い草が延々と生い茂っている野原となっている。
周囲に建物や人影は全くない。
「結構遠くまで来ちまったな」
もうグラファリス王国の方向が分からない所まで来てしまった。
(ルーシェ……)
大丈夫なのだろうか。
しかし、現在地が分からない為、戻ろうにも戻れない。
「きゅあ~?」
キャシュは大きな耳を動かしながら辺りを見回す。
「キャシュ、捕まって」
シューレンはハンドルを回し、周囲一帯を見渡せる程高く昇る。
やっと建物がいくつか見えた。しかし、かなり離れているのだろう、かなり小さい。
「――国……いや、集落かな」
「きゅぅ?」
キャシュが問い掛けるように鳴く。
「行ってみるか」
シューレンはキャシュに答えるかのように言って、ジャックをその集落の方へ飛ばせる。
ルーシェは大丈夫だと願って。
彼女が無事なら、その集落で会えるかもしれないと思って。
グラファリス王国の大河でセディロスはふうと息を吐く。
少し危なかった。
「セディロス中佐、お怪我はありませんか?」
リョウは、自分を地面に降ろしながら訊いて来た。
「リョウ、見た? さっきのドラゴン!」
セディロスはリョウの質問には答えず、くるりと彼女を振り返りつつ見上げて、満面の笑みを浮かべながら新たに問い掛ける。
「フィールンハデスだよ! フィールンハデス!! 人前にはぜったいに現れないドラゴン!!」
「ええ」
セディロスはかなり気持ちが上がっていた。
軍人ではあるが、まだ10歳の子供だから抑えられない。
リョウは軽く、でも優しい声で相槌を打つ。
あの朱髪の女を逃したのは悔しいが、良い収穫もあったとセディロスは嬉しくなる。
「皇王さまにご報告だね」
語尾に音符でも付いているような口調で言う。
「ですが、その前にガイレス参謀長へ報告を致しませんと」
「うん! だけど、皇王さま、よろこんでくださるよね」
リョウの言葉を気にせず、セディロスはアレンバート皇王を喜ばせる事が出来ると思い、笑みが絶えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!