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集落が鮮明に分かって来た所で、シューレンはジャックから降りて歩いて集落に入る。
「すげぇ。家とか木で出来てる」
シューレンは声をあげる。
グラファリス王国は建物の全てが煉瓦で出来ていて、木造と言えば柵くらいしかなかった。
「あれ? 誰か、人……亜人種とか、いないのかな?」
シューレンは辺りを見渡すが、人がいそうな雰囲気ではない。
このレベッテスティーノ大陸の先住民である亜人種は、今でも狩りをする種族がいるらしい。
だが、此処に住んでいる種族は狩りをしていないように思える。野菜が家の前に並べてあり、規模は小さいが畑が耕してある。
「きゅあ~?」
キャシュが鳴き、ギュアとジャックが鳴き返す。
キャシュは物珍しそうに野菜を見ていて、ジャックにこれは何? と、問いているようだった。
「きゅ!」
カプッとキャシュは黄緑色の野菜を噛り付く。
「あ!! 勝手に食っちゃ駄目だって! キャ――」
〈いってぇ!!〉
シューレンがキャシュに駆け寄ろうと手を伸ばした瞬間、野菜が声をあげる。
「は?! なななっ、しゃ、しゃ喋ったぁ!?」
何を言っているのかは全く分からないが、取り敢えず野菜が声をあげたのは理解した。
〈なぁにしやがる! 俺の頭噛みやがって!〉
目の前が蜃気楼のように揺れると、野菜が人の形になる。
〈てめぇ盗っ人か?〉
野菜だった男が何か言って語尾を荒らげる。
何を言っているのか分からないのは、彼は先住民である亜人種達が使う言葉――ニュクス語だからと言うのもあるが、混乱しているのも大きな要因だ。
〈ベルディ、やめないか〉
振り返ると、何時の間にか20人程の男女が集まっていた。
(いい、いつの間に?!)
その中のリーダー格であろう青年が、落ち着いた口調で何かを言って野菜だった男――ベルディと聞こえた――を咎める。
この人達は何処にいたのだろう。
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