前兆

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 それとも――と言い掛けた彼は、腕組みをしたまま、ひどくいたずらめいた顔でリュウとフローラとを交互に見る。フローラは首を傾げていたが、リュウは渋い顔をした。どうも嫌な予感しかしなかったのだ。 「二人で帰りたい?」  瞬間、フローラが傘を取り落とす。想像通りだ。リュウがやれやれと溜め息をつく横で、彼女は妙に慌てふためいた様子でまくし立てた。 「みんなで! みんなで帰ろう! 三人で! ね!」 「ほんとに? オレ、邪魔じゃない?」 「邪魔じゃないよ! 最初にみんなで帰ろうって言ったのはタツキ君なのに、どうしてそんな」  二人の会話と雨の音を聞きながら、リュウは一人、黙々と帰り支度を進める。最近の隊長は、自分とフローラの仲を言及することがやたらと多くなってきたから、あとで釘を刺しておかねばとぼんやり思った。  リュウが所属しているギルドというのは、一般的に、民間の治安を守る組織と言われている。最も栄えている風の国に本部を置き、支部は雪の国、森の国、火の国の計三カ所に存在している。リュウたちはギルド本部にあたる風の国に所属しているのだが、単純に土地が広いせいか、他の国に比べて多種多様な依頼が舞い込んでくるため、いわゆる『何でも屋』としての側面も強い。
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