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いつも夜が来るたびに、心が潰されそうになる。
しん…と静まり返った部屋の中。
目を閉じると思い出す、短かったけれど楽しかった家族の思い出。
入院中の間は、毎日孝治の夢を見た。
夢の中で彼は、いつも笑顔であたしの手を引いてくれて――
急に駆け出した彼に追いつこうと、あたしも走る。
待って、待って。置いていかないで――
そして夜中に目が覚める。毎晩毎晩。
その度に涙が頬を伝い、またあたしは、一人ぼっちになってしまったのだと気付かされる。
部屋がノックされた。
扉越しに声が聞こえる。
「俺だ。今日のメシは何が食いたい? って訊きたいところだが、外食はさすがに無理だから、男の料理で我慢してくれな」
「…いらない」
「食っとけ。食料難でもねえのにくわねえのは餓死がしたいからか?餓死も立派な自殺だ」
「立派じゃないでしょ。自殺なんだから」
下らない冗談で笑わせようとしているのかしら。
呆れたが、それだけは言いたかった。
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