地獄

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足取りは重く、俺は部屋を出て携帯を取り出した。 「…兄さん…?」 『海斗か!?』 嬉しそうな兄さんの声がする。 恐らく良い報せだと思ったのだろう。 「今すぐ…来てくれませんか…?」 『どうした?…お前…泣いてるのか?』 「…泣いてないです。だけどっ…早く来てくださっ…早く…」 『かい…』 「早く…助けて…」 ピッ。 それだけ言って電話を切った。 救急車を呼べば騒ぎになる。 そしたら遊里が余計に傷つくのではないか。 うまく働かない頭で必死に考えた結果だった。 「くくっ…だから今会わない方が良いって忠告したのに。」 嘲笑う声がして、頭に一気に血が上る。 ゆっくり振り返ると柱にくくられたまま男が楽しげに笑っていた。 何が…楽しいんだ? 何で笑えるんだ? こいつらは本当に…人間なのか? 近くにあった鉄の棒を、気がついたら握り締めていた。 「…おいっ…それは死んじまうって!」 男の恐怖に満ちた顔すらざまあみろと思ってしまう。 こいつらが遊里に…。 そう考えたら棒を振りかざしていた。 ガンッ!!!!! 「…ひ…は…ひぃっ…」 棒は男の頭を微かにかすり、床にめり込む。 「…本当に…殺してやりたいよ。」 男を睨みつけ。 棒を床に投げ捨てた。 …殺してやりたい。 だけどできなかった。 それをしたら、遊里が悲しむような気がしたから。 流れる涙を拭い、俺は遊里のいる部屋に戻った。
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