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「へぇ~どうりでね~」
中谷さんがアタシに意地悪そうな笑みを向ける。
恥ずかしいから少しだけ語り過ぎてしまったことを後悔する。
「藤子ちゃんは彼の正体知らないの?」
「正体って?」
「私、美加子から聞いたのよね~」
あぁとアタシは納得する。
美加子ちゃんは吹奏楽部で午後から音楽室を使う。
午前中使用しているアゲハとニアミスしていても、不思議ではない。
「王子様みたいって」
中谷さんは笑いを堪えてそう言った。
アゲハは王子様に見えなくもないがアタシは普通の男子だと思う。
ちょっぴりピアノ上手なだけの。
「でね玉砕した子が昨日で二人」
アタシは棚に戻しつつあったカップラーメンを手元が狂って、落としそうになった。
「興味ないからって」
その場面をアタシは想像する。
無表情の彼が顔の無い女の子に素っ気なく言うその瞬間を。
少しの優越感に浸りながらも、アタシも何時アゲハに
「来なくていい」
と言われるのか、それを考えてしまう。
「いいわよね~青春よね~。じゃ私トイレ掃除してくるわね」
言いたいことだけ言って中谷さんは、バケツを片手にお手洗いに退場した。
商品棚に残されたアタシは一人悶々とする。
アゲハの正体が知りたい。
彼がどんな理由であそこに存在し何を目的としているのか、アタシは知りたい。
でも、中谷さんからそれを聞いてしまうのは何か違う感じがした。
アゲハから語ってくれるのを待とうと思う。
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