最初で最後のありがとう第四話 よみがえり

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第四話 爺さんに近づいてみる アラームが まだ命の火が 残っていることを 警告している ふと もう半世紀も 前の事を思い出して 爺さんのスネを見てみる 両足とも見たが どちらにもなかった 昔俺が付けたはずの 歯型は消えていた 何か 俺の気持ちの中で 緩んだような気がした 女房が 後ろからせっつく どうするの~? 見殺しにするの~? いや~ まさか~ そんなわけ 出来る訳無いじゃん まだまだ 十分間に合うし 体に気を込めて 少しこわ張り出した 爺さんの体に 触れる 温もりが まだこれだけあれば 十分だ まだ爺さんの魂は 体から 離れていないし とはいっても 魂は もうすでに体の半分を 離れていて 足はかなり 硬直し始めている 足の両指 一本一本 ひと関節ごとに ほぐしていく 次は足首 次は膝だ 両手も指の一本一本と 両腕が終わる頃には 体に弾力と 温もりが戻り いつの間にか モニターの警告音も 消えていた いきなり がば~っと 爺さんが上半身を 起こした まだ意識は戻ってない 俺はベッドに上がると 爺さんの背中に 回り込んで 背中をさすりこんだ あ~あ~ 気持ちがいいの~ 爺さんが声をあげた 誰だか 俺のことわかるの? 背中にさらに力を入れて さすりながら 聞いてみた トシだろ~? な~んだ ちゃんとわかってたんだ あ~ 初めは誰だか さ~ぱり わからなかくて 看護師さんかって 思ったんだけどな~ 今どうなってたのか 自分でわかってる~? あ~わかってるよ 俺は婆さんに 手を挙げて散々 困らせたから 迎えに 来てくれなかったんだな ポツリといった 爺さんから 聞く初めての弱音 寂し~い 物悲し~い 何とも言えない 言葉だった 第五話つづく
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