第一章

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   「欧州の小国『ソレイユ王国』で、革命。独裁政治、討伐される!………へえ。あそこの国、王政廃止になるのかな?」  薬嗣は新聞を読みながらコーヒーを飲んだ。基本的には日本茶が好きだが、講義の始まる朝はコーヒーを飲むのが習慣となっている。今日も新聞を読みつつ、朝の一時を過ごしていると、興味のそそられる記事に目がいった。  「あの国、面白い土地なんだよなー。ヨーロッパに在りながら砂漠と険しい山々に囲まれていて、石油と鉱石が採れる摩訶不思議な国でさ、アラブ諸国の民俗とヨーロッパ諸国の民俗がミックスになってて……………狸。起きてる?」  「………ふごっ……?!ワ、ワシは寝ておらんぞっっ!!」  狸が慌てて飛び起きた。寝ていないと言っても、口元にはヨダレが垂れて、鼻提灯をつくっていたクセに、まるっきり説得力が無い。  「あんまり無理するなよー。針持ちながら寝てたら危ねえぞ?」  「ぬ…………そうは言うてものー。文句はお主の親友に言え!」  狸は小さな手で器用に針を動かしてゆく。一針一針入る毎に、繊細な刺繍が施され、鮮やかな雪の紋様が浮かび上がる。  「…………そのちっちゃい手で良くできるよな。」  「ぬかせ。ワシがお主等の着る物を作っておったんじゃぞ。まあ、着物関係は炎月の方が得意じゃがな。」  喋りながらも手を止めない。此処まで必死になる狸には理由があった。  「みかんさ、無謀過ぎるよな?うちのメンバーの文化祭の出し物が、コスプレカフェって。」  「見た目は良いからなお主等。しかし………何でワシが服を作らんといかんのじゃっっ!!」  「安上がりだからじゃねえの?それにさ、俺やみかんならともかく、宗とか桔梗君、煉の服って既製品じゃあ高上がりだろ?190㎝以上。何食ったらあんなにでかくなるんだ?」  色々食わせたのが自分だったので、狸は黙って針を進めた。
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