第1章

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 20を過ぎるまでは私はコンプレックスのカタマリだった。 短くてずんぐりした指も嫌いだったし鏡を見るたびに消えていないソバカスだらけの顔にも目をそらしていた。一度テープレコーダーで聞いた自分の声に嫌気がさし、それ以来カラオケにも行かなくなった。細くもなく早くも走れない足も嫌いだった。どうして運動着はこんなに足がむき出しなのだろう、と学校で体育があるたびにウンザリした気持ちになっていた。  気付いたら友人と呼べる人もいなくなり、周りの女の子は恋人作りに精を出しこぞってファッション誌を読みオシャレに磨きをかけていった。  かといって特にいじめられていたとかハブられていたとかそういうことではない。運動会では私より運動が苦手な子がいたし修学旅行でもグループがないわけではなかった。 ただ何所にも自分が属すると思えるグループがなかったのだ。  が、そのコンプレックスが成人式を迎えた頃にはなくなってしまった。というよりコンプレックスを感じていた心の一部が麻痺を起こしてしまったとでもいうか…どうでもよくなったのだ。少なくとも成人式を終える頃には自分に対する興味が枯渇したことをはっきりと自覚してしまった。  それ以来コンプレックスという枷がなくなった反動かあんなに自信がなかった就職活動も難なくこなし「就職希望」の一番上に書いた企業に就職できた。  就職してからも特に何かが怖いということもなく、あるのは環境が変わったことへの戸惑いだけだった。が、それも3ヶ月後には「新入社員の自覚がない」と上司にまで言われるほどになっていた。
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