10 皐Side

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      「いた…………」 俺の視界を遮っている茶色いモノ。 ふわりと漂う香りは俺と同じ匂い。 棗の柔らかな髪。 …………髪? なんで棗の髪が俺の顔に被さっているんだ? いまいち状況が掴めていない俺。棗もなにも声をあげないことから、状況がわかっていないようだった。 「棗?」 「……っ!」 俺の視界の端で何かが徐々に赤らんでいく。 棗の…………耳? 俺の顔の上に棗の髪があって、俺の口の横に棗の耳がある……。 あぁ、なんとなくわかってきた……。 棗が俺の上に覆い被さっているわけか。 「棗」 「……っ」 いやいやいや、そんな可愛い反応されても困るって。じゃないと俺が……。 頭は随分冷静だが、体はそういうわけにはいかない。 早く……早く棗を退かさないと……。 そう思うのに、声が出ない。体が動かせない。 「退け」と1言言えばいいだけなのに。 肩を軽く押すだけでいいのに。 離さなきゃいけないってわかっている。 一刻も早く棗を俺の上から退けないと、棗と離れないと、いけないってわかっているんだ。 …………でも……。 なんだか…………離したく……ない。 つうか! なんで棗も退こうとしないんだよ! 棗が退こうとしてくれれば、俺だって棗の意志を汲むのに!  
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