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「いた…………」
俺の視界を遮っている茶色いモノ。
ふわりと漂う香りは俺と同じ匂い。
棗の柔らかな髪。
…………髪?
なんで棗の髪が俺の顔に被さっているんだ?
いまいち状況が掴めていない俺。棗もなにも声をあげないことから、状況がわかっていないようだった。
「棗?」
「……っ!」
俺の視界の端で何かが徐々に赤らんでいく。
棗の…………耳?
俺の顔の上に棗の髪があって、俺の口の横に棗の耳がある……。
あぁ、なんとなくわかってきた……。
棗が俺の上に覆い被さっているわけか。
「棗」
「……っ」
いやいやいや、そんな可愛い反応されても困るって。じゃないと俺が……。
頭は随分冷静だが、体はそういうわけにはいかない。
早く……早く棗を退かさないと……。
そう思うのに、声が出ない。体が動かせない。
「退け」と1言言えばいいだけなのに。
肩を軽く押すだけでいいのに。
離さなきゃいけないってわかっている。
一刻も早く棗を俺の上から退けないと、棗と離れないと、いけないってわかっているんだ。
…………でも……。
なんだか…………離したく……ない。
つうか! なんで棗も退こうとしないんだよ!
棗が退こうとしてくれれば、俺だって棗の意志を汲むのに!
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