3183人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
「……兄貴、よく来るの?」
「あぁ。結構頻繁に来るね。俺から呼び出すこともあれば、いきなり押しかけてくることもあるし」
眉間にしわを寄せ、あからさまに不機嫌そうな顔をする。
「明日、帰ったら勉強道具持ってもう1回皐ん家来る。道も覚えたから」
「え、なんで?」
「…………来る」
「いや、それはわかったから。理由を言え。理由を」
なんだよ、棗。
いきなり不機嫌になって。
俺、なにかしたか?
「…………だって……」
「だって?」
そのときは、黙るなよ? ちゃんと言えよ? と思っていたんだ。
だが、棗がその言葉を発した後、言わせなければよかった……! と激しく後悔することになった。
「兄貴が皐にとって大切な人なのは知ってるよ。兄貴だって皐のこと大切みたいだしさ。でも、皐と付き合ってるのは俺なんだ。こんなこと言うの、わがままだってわかってるよ? それこそ、まだ会って1週間だし、付き合って1時間経ってないし。でも……なんか嫌なんだもん……。兄貴が、皐の特別みたいで、悔しいんだもん……」
ちりちりと焼かれていく俺の理性は残り少ない。
耐えろ! 耐えろ!
頑張ってくれ! 俺!
「ごめん……。なんか言ってることおかしいね」
「いや、別にそんなことないけど……」
「そう? ならいいや。片付けてくるね、マグカップ」
棗が立ち上がり、1歩踏み出す。
すると、さっき俺が出したガウンを踏み、つるりと滑る。
「うわっ!?」
棗が俺に倒れ込んでくる。
俺は反射的に受け止めようとするものの、棗が膝を曲げたおかげで倒れてくる軌道が変わり、棗の体は俺の手をするりと抜けた。
カシャンッと音がし、飛び散る破片が視界に入る。
破片に気を取られていると、背中と後頭部に鈍い痛み走り、体全体に重みがかかる。
思わず瞑ってしまった目を開けると、俺の視界の半分が茶色い何かで遮られていた。
最初のコメントを投稿しよう!