10830人が本棚に入れています
本棚に追加
/1256ページ
「……読めた、ねえ」由香子は斜に構えた。「本当に読めたかどうかなんてわからない。
あんたの答え合わせに付き合う義理なんかないから、まずは、すっとぼけさせてもらうわ。『なんのこと?』」
虎ノ介は含み笑いを浮かべ、「じゃあ、今度はおれの番」と、目を細めた。
その目の奥に熱がたぎる。さながら、新しい玩具をみつけた猫のような。
「あんたの目に、おれはどう映ってる?」
短く息をはいて由香子は口角を上げた。
「まるで、自分を鏡に写したようで、腹立たしい。
ちなみに、私もやるもの。会話の始めに話題をずらす、それ」
「勘弁して」言いながら虎ノ介は腹の中では、同感、と思う。「一緒にしないでよ。少なくとも……おれはあんたみたいに野暮じゃない」
由香子は、微かに顎を上げた。
「やめろ、って言いたいわけ?
意外と良い子ちゃんですねー」
「挑発に乗るわけじゃないけど、別にそんなこと言うつもりはない。
ただ、昔からよく言うじゃん。
『人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んじまえ』ってね」
「だから? 私があのヌけた会長に蹴られるとでも? 冗談」
由香子の言葉に、虎ノ介の目の色が変わった。
最初のコメントを投稿しよう!