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克彦の胸に耳を当てて鼓動を聞く。
一定のリズムでトクトクと刻む音を聞きながら、克彦が瀬尾に傷つけられた時の事が脳裏に浮かぶ。
あの時失いたくないと思ったのは確か。
―――そして克彦は自分がいいと言ってくれる
思い切れない蒼の耳元で克彦が囁いた。
とたんに頬を染めた蒼は覗き込むような目に誘われて小さく俺も、と呟いた。
優しい瞳で見守ってくれるこの人を信じよう。
初めに恋したのは克彦ではなかった。
けれどもいつも温かい目で見守ってくれていた克彦の存在が、今は蒼の中で揺るぎ無い位置を占めている。
今なら恋した相手が誰なのかはっきり言える。
自分の欲しい言葉を囁いてくれるのは克彦。
「愛してるよ」
まるで呪文のような言葉は、意外な恋の行方を祝福するかのように響いていた。
FIN
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