その夜の話

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「じゃあ所長さんは、この少年君をどうしたいのですかい?」 功凪、軒太郎、赤股が、順に問う。昂輝も同じように問いたかった。 「武道家でも、武器使いでも、カード使いでも、爆弾使いでも、人造人間でもない、新たな強さ。新たな個性が、彼に欲しいのだよ」 「ようするに父さんは、防御の不老不死に、新たな攻撃力が欲しいと」 「そんなところだ、息子よ」 「攻撃パターンの個性ですか……」 昂輝の答えに「そうだよ」と眼一郎が相槌を入れる。 個性。 確かに昂輝の攻撃パターンは、呪いの不老不死に頼りきった、死ななければ負けないと言っただけの物だ。 単純な人海戦略にも近い戦術しかとれない。死んでも生き返り、何度でも立ち向かうだけである。 それ以外の戦術といえば――。 憑き姫の力を借りて変身する五色鬼の力。 軒太郎から借りた武器をイゴールに移植してもらった体内暗器。 どれもこれも使うのは自分、戦うのは自分だが、自分ひとりの力でない。借り物だ。 個性。 自力の強さ。 今、昂輝に足りないものは、確かにそれらかもしれない。 自分に足りないものは、オリジナルの攻撃術かもしれない。 「まあ、この世界に足を踏み入れて間もない。彼が自分の個性を見つけて、磨き上げるのを急がせても仕方が無い。ゆっくり見守る意味もかねて、先ずは戦いの基礎から教わるのがいいかと思ってね」 なるほど――と、心中で納得する昂輝。 「それでワシに指導せと――」 「ああ、どうかね功凪じいさん?」 若干悩んだ顔を見せる功凪老。表情が渋い。 「お願いします!」 突然昂輝がソファーから立ち上がり頭を深く下げて声を張り上げる。事務所内に昂輝の決意が広がった。 「ほほぅ。少年は、本当に探偵になりたいのか?」 顎を撫でながら昂輝を見上げる功凪老が言った。昂輝の覚悟を察しながらも確認を取る。 「はい!」 一流の探偵。ヴァルハラエージェント。それらに成りたいと述べるよりも昂輝は、ただ強くなりたかった。肉体的にも、精神的にも。誰にも負けない強さ、自分に負けない強さ、己の中に潜む呪いにも負けない強さが欲しかった。 真剣な眼差しのまま頭を下げ続ける。 「よかろう。引き受ける」 「本当ですか!」 頭を上げた昂輝が、満面の笑みで歓喜した。眼一郎も、ほっと胸を撫で下ろした。 「ただしだ」 功凪老が条件を加える。
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