長州

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「それより知ってるか。この前の池田屋のこと」 またか、と弥平は言って眉をしかめた。 佐絵、長州の次は弥生か――そこまで有名なのだろうか、新選組という集団は。 「何だ、知ってたのか。流石にあんたも壬生狼のことは知ってるか。たまに此処にも来るだろう」 けけけ、と弥生は女らしかぬ奇妙な声で笑った。 弥平はぎろりと目を剥いて弥生を見た。弥生はその目を見て、更にへらへらと笑った。 「何、あんた壬生狼に何かされたのか?そりゃ愉快な話だね、聞かせなよ」 「別に何もされてはいない。仕事が入っただけだ」 「あんたの手に持ってるその手紙か。見せて」 あ、と弥平は言い切らぬ内に、弥生は弥平の手から手紙を引ったくった。弥平が弥生を睨んでも、既に弥生の目は候文を追っている。 弥平は溜め息を吐いた。弥生には敵わない、とでも思っているのだろうか。 「へえ、大変だ。だからあんたは今変な顔してるわけだな。私も協力できたらしてや、」 弥生は言い切る前に目を剥いて、手紙を着物の掛衿に収めた。 弥生のこの表情はただならぬものを感じたときにしか見せないものだ。 「――弥生、誰が来た」 「――は、耳を済ませて聴いて御覧」 弥生はくす、と笑った。だが剥いた目は笑ってなどいない。 弥生が溜め息を吐いた刹那、がたがたと外から物音がした。 弥平がそれに目を向けると、そこには“妙な模様の羽織を着た奴等”が二人立っていた。 「少しだけ、宜しいかな」 角張った顔、睨むように細い目。顔を恐げにしている。二人共同じような顔だ。 弥平は目を伏せて、無言で頷いた。そこには妙な威圧感が出ている。 二人の壬生狼はそれが気に入らなかったのか、勝手に刀を手に取り、抜刀した。 「試し斬りをしたいのだが、貴公で試してみたい」
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