序章

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人形は好きですか? 私は好きです。 部屋に何体か置いてあります。アンティークドールみたいな高価で精巧な人形ではありませんが、とても気に入っています。 でも、苦手な人形があります。 ある日、友達がいつものように病室を訪ねてくれました。友達はニコニコしながら、ある人形をプレゼントしてくました。 ロシアの人形だと、説明してくれました。おきあがりこぼしのような、可愛らしい姿の人形です。 私はお礼を言いながら、その人形をいじっている時でした。 パカッと、人形が縦に開いたのです。壊したのかとびっくりしていると、友達は笑いながら中を見て、と言いました。開いた人形の中を見るともう一体、同じ柄の一回り小さな人形が入っていました。 取り出して、まさかと思い、私は小さな人形をいじりました。やはり縦に開きました。そして、中にまた人形が入っていました。 友達は驚いている私に、マトリョーシカという入れ子人形だと付け足して説明しました。何体も何体も、中に人形が入っているのです。 ───怖くなりました。 友達には言いませんでしたが、怖くなりました。 友達は私と同じなのですが、彼女は怖がっている様子は微塵もありません。私を怖がらせようとしている気もないでしょう。ただ、無邪気にこれを私にあげようと考えてくれただけです。 怖がらない彼女が羨ましかったです。強い子だから、怖がらないことはすぐにわかりました。・・・強い子、そう、強い子なんです。 私はとても弱いです。彼女より5つも年上なのに、弱いんです。 ・・・ああ。駄目ですね。 私は、人形が好きです。 でも、あのマトリョーシカという人形だけは嫌いでした。 何体も、何体も、何人も、その『人』の中にいる。 怖いです。
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