2章

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閉店後の[アクア]の店内、天井の照明は既に落としている。 ろ過そうを通って流れ落ちる水音、低く唸るモーター音。 僕は何時もの様に[水中の森]の前に椅子を引き出し、青白く光り輝く、水の中の世界を眺めていた。 『あの頃千夏は、僕の心の変化に、  気付いていた』   高3の秋頃を思い返してみる。 あの頃千夏は自分のせいで、僕が両親を失った悲しみを、1人背負わなければ成らなくなったと、思っていたのかも知れない。 千夏が階段から落ちたのは、千夏の罪では無いし、ましてや僕が両親と一緒に、里帰り出来なかったのも、千夏のせいでは無かったと思っている。 けれど僕の心の変化を、千夏は敏感に感じ取り、自分のせいと感じ、責めていたのだろぅか? 僕が変わった様に、両親の事故以来千夏の中でも、何かが変わったのかも知れない。 迂闊にもあの頃の僕は、自分の事で手一杯で、千夏の事に気を回す心が足りなかった。 千夏もまた、1人でどう扱ってよいか、分からぬ自分の心に、悩んでいたのだ。 総てを思い出せないが、あの頃の千夏の表情、目の動き、仕草、微妙な声の変化 断片的な記憶を手繰り寄せながら、 『僕ってダメな奴』 と、今更ながらため息をついた。
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