8章 惜別

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「トモさん!?家おるんですか!?」 僕は驚いて声が裏がえった 周りの客も突然変な声を出した僕の方を見た トモ「…うん 色々考えよったんやけど… 俺、とりあえず実家に帰る方が安全やないかと思うっちゃんね… それに… ただでさえこんな辞め方して… さらに雅樹さん達怒らす様な事…」 トモジは完全にビビっていた 僕「いいよ、トモさん 謝らんでも僕等は大丈夫やけん ただ… 気をつけて下さいね」 トモ「…うん 本当… ごめんね… 良太君達も気をつけて…」 僕「こっちは大丈夫!何とか逃げ切ってみせるけん!」 しばらく2人共無言になった 「じゃ… 俺、夜行バスで今から帰るけん…もう出らないかん…」 トモジが先に口を開いた 「あっ… そうなんですか じゃ 遅れん様に… 気をつけて…」 この時、屋台に入ってからの色んな記憶が断片的に頭の中によぎっていた 僕は「サヨナラ」を言いたくなかった 「サヨナラ」が言えないから電話を切るタイミングがわからなかった ただ、この時に僕は二度とトモジと会う事はないと確信していた だから言葉を必死に探していた しかし気の利いた言葉は見つからない 僕が黙っていると トモジ「じゃあ俺、行くけん… 良太君… ありがとね…」 僕はトモジの言葉を聞いた瞬間、体中の血液が全て頭に昇った様な感覚だった 『アリガトウ』 その言葉こそが、僕が直接、自分の口からトモジに伝えたかった言葉 言わなければならない言葉だった 僕「僕こそ!今までありがとうごさいました! 年下の僕について来てくれて! ホント楽しかったし! トモさんと一緒に仕事できて嬉しかった!」 抑えていた感情が爆発して早口で言った 「俺も楽しかったよ じゃあ… さよなら」 トモジは僕と対照的な冷静な口調で言った 僕「またね! トモさ…」 僕が言い終わる前にトモジは電話を切った 『またね』と言った時だろうか、トモジに『さよなら』と言われた時かはわからないが、僕はいつの間にか涙を流していた
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