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やっとお昼休みになって、俺は急いで携帯を手に取り食堂へ向かう。
普段食堂に来ることはないのだが、どうしても弘也が気になって仕方がなくて。
我が社の食堂は我ながら綺麗だと思う。
女性に好かれやすい清潔なガラス張りのビュッフェ形式だ。
メニューも充実していると思う。
社長である私が大勢の人でにぎわう食堂へ行くということで、豊田くんもついてきたわけで。
「社長が食堂なんて珍しいですよね?昼食とっているところ、見たこともないし」
「いや、ただの電話だけだよ。昼食は要らないかな。 豊田くんは食べてていいよ」
「電話、ですか?」
昼食を食べないと聞いて、豊田くんは不安そうにしていたけれど、普段とらないから別にお腹も空いていない。
別に心配することないよ、と笑顔で彼をなだめた。
「誰に電話なさるんですか?しかも、私用携帯ですよね、それ。相手方の会社なら電話代会社から出ますし…」
「まぁ、プライベートだからね。さすがに会社の経費で支払ってもらうほどじゃないかな」
それに、支払うほどの額でもないだろうし。
と、少し話をしてから、豊田くんに料理をとってくるように言った。
豊田くんは、なぜか電話の様子を見ていたかったようだけど、しぶしぶ料理をとりに行った。
登録してあるアドレス帳から、弘也の文字を探す。
ピッ
通話ボタンを押して、聞きなれた呼び出し音を右耳で聞く。
『はぁい、もしもし。弘也です、坂本さん?』
「あ、もしもし、弘也。ごめんね、何かやってた?」
『ううん、別に何も。どしたの?』
「いや、ただ弘也が気になって」
電話越しで、弘也のあの声がストレートに聞けないところはちょっと嫌だけど、もやもやと午前中過ごしていたから、なんだかすっきりした。
『なにぃ?オレと話したかったの?』
「…んー、まぁ、ね」
弘也のからかう言葉でさえ、俺に頑張る力をくれていた。
すると、となりに豊田くんが帰ってきた。
「…社長」
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