失職

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「はー…」 手のひらに吐いた息が白くなり、すぐに消えた。 雪でも降るんじゃないだろうか。 波平は、手のひらをこすり合わせながら、もうすぐ冬の星座になる夜空を見上げた。 星が綺麗だ。 あの星の光は、何年前の光なんだろう。 月明かりが波平の頭皮を照らし、ピカピカと反射する。 「ふぅ。」 俺は何時間前まで、平穏だったのだろう。 おい波平、あんた、クビね。 社長直々のお言葉が、頭の中で反響する。 「リストラされたんだ。」 波平は自分に言い聞かせるかのように呟く。 まさかただの 失敗 で職を失ったなんて、悲しすぎる。 リストラだ、リストラ。リストラなら、しかたがない。 まさか俺が会社で、女性社員に向かって 「おい、母さん」 なんて呼んでしまったからクビになった なんて、信じられない。信じたくない。信じない。 小学生なんて、絶対一回は先生のことを お母さん って呼ぶだろ?普通だろ。 お母さん発言は、人として普通なんだ。なんも恥ずかしい事じゃない。 おい、母さん 自分の言動を思い出し、耳が真っ赤になる。 なさけない。 そうさ、きっと、これは新しいリストラなんだ。 母さんリストラ だ。 間違いない。 俺は会社からリストラされた被害者なんだ。 俺にはなんの落ち目もない。 「母さん、靴下脱がせて」 波平は普段通り家路に着き、何事もなかったかのように振る舞った。 いつものように母さん(フネ)に着替えさせてもらい、いつものように母さんのホクロの数を数えて、眠りについた。
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