見抜けぬ正体

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誰の声だったのか、何処で聞いたのか―と、記憶を探る。 視線をTVに向ける。と同時にTV画面は切り替わり、“オカノアキヒト”の姿は消えた。 「今日、彼にそっくりな人が会社の前に居たわよ」 「彼って?」 TVの音を聞くのを諦めて、綾子との会話に専念する。 「今の、岡野昭仁ってミュージシャン。亜由美ちゃんが、絶対に本人だって言い張ってたわ」 「私達の会社に来た訳じゃないんでしょ?」 綾子と向き合ったソファーに腰掛ける。 TVに背を向ける姿勢だ。 「まあね。ビルの前に居ただけだし。一本どう?」 袋からビールを取り出して差し出す。 病み上がりで、絶対に飲まないと判っていて差し出した。 案の定、瑠璃は断った。 「大切な有給を、風邪の治療の為だけに使いたくないわ」 「それもそうね」 納得した綾子は、瑠璃に差し出したビールを引っ込めると、自分で飲む為に開けた。
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