見抜けぬ正体

15/16
121人が本棚に入れています
本棚に追加
/278ページ
軽く済ませたいと思って冷蔵庫を開けた時、音楽番組の司会者が“オカノアキヒト”の名を言った。 最初に歌うのだと知ってリビングへ戻り、眼鏡を掛けてスタンバイする。と同時に、ドアベルが鳴った。 急な来客に苛立(いらだ)ちを感じながらも無視する事は出来ず、渋々玄関へ向かう。 ドアの向こうに居たのは、笑顔の綾子だった。 「どうしたの?」と聞きながら、TVの音を気にする。 ボリュームが小さすぎて、ハッキリと聞き取れない。 イライラする。 「手伝いに来たわよ」 笑顔でそう言う綾子の手に、缶ビールが入った袋を見付けた。 一緒に飲む為の口実だわ―と思ったが、正直、手伝いが欲しいと思っていたところだった。 「入って」と瑠璃が言う前に綾子は靴を脱ぎ、リビングへ向かっていた。 綾子を追う形でリビングへ行くと、TVでは、まだ“オカノアキヒト”が司会者とトークをしていた。 今度はハッキリとその声が聞こえ、聞いた事のある声だと思った。 TV越しに聞いた声ではない。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!