足音

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二年。二年前の今日、彼女に告白して付き合いはじめた。お互いに仕事に手を抜く事が出来ない性格で、二人の時間は周りからすれば少なく、よく続いてるとよく言われている。正確に言えばもうすぐ『続いた』になる。 彼女を嫌いになった訳でなく、僕も嫌われた訳でもなく、喧嘩した訳でもなく、どちらから言い出した事すら思い出せないくらい、自然と互いが互いから離れることを決めたのだ。 今夜は最後の食事になる。そう思うと悲しい気持ちにもなるが、深いか?と言えば、わからない。 きっと僕の心のどこかに、別れる理由がないのだから、少し離れるだけなんだという根拠なき考えがあったからかもしれない。 待ち合わせ場所に着くと、何も知らない噴水が綺麗なピンク色の照明を受け緩急をつけながら…。時計をみる間もなく彼女が僕の後ろからいつもどおり声を。 振り返るといつもより少しだけ彼女の唇が高く。 彼女は『ごめんなさい。食事はやめましょう。』とゆっくりと。 『そう、君がそうしたいなら』と僕。 『本当にいいの?』と彼女。 『うん。』とこたえると同時に『じゃあ、ここでさよならだね』と彼女は微笑んで振り向き歩きだした。僕は慌てて『これからどうするの?』と。 彼女は振り返り『あなたはどうするの?…私はもう歩き出してるよ。私は私で歩き出してる。私の道は私が決めるわ、あなたの優しさは忘れないよ、でも今の私に必要なのは私の力で歩き進むことなのよ。あなたの優しさが教えてくれたのよ。ありがとう。』そう言うと彼女は僕の言葉を待たずに去っていった。 姿はすぐに見えなくなった。 噴水の音と彼女の足音だけが耳に。 そう、彼女は僕に言葉がない事を知っていたのだ。彼女は明らかに大きな何かに歩き出していた。彼女が僕に『ありがとう』と言ったように僕も彼女に『ありがとう』と小さく呟いた。大切な人を失う本当の悲しさを教えてくれたのだ。そして、追いかける事は許されない事も。 噴水の音と彼女の後ろ姿、多分あの日、彼女の黒いヒールは1㌢高かったと思う。 彼女の強くそして新しい足音を僕は一生、忘れないだろう。
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