オルカとニタリ

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オルカとニタリ

 それは今から、何世紀前だったか、まだ狸や狐が当たり前に化け、川には河童がいた時代のこと。日本の東の、そう遠くない海には、人魚がいた。  人間には広すぎる海の中を、イルカに似た細身の尾鰭を翻し、人間にはどうやっても及ばない速度で、サスマタのような銛と網を手にした人魚の青年が一頭、仲間のいる岩場へと泳いでゆく。  人魚が見せ物小屋に並んだような時代から、早くも100年近くの時が経ち、そんな負の歴史は、彼にはすでに昔話になっていた。
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