🍀1章―遠い日の悲劇

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子供の泣き声が聞こえていた。 サリシオンはその泣き声の方を振り返った。 豪華なドレスを着た女性に、その泣き声の主は顔を埋めていた。 女性はその子供を泣きやませようと、声をかけていた。 「……大丈夫よ……すぐに騎士が来てくれるから……」 その女性の声も、微かに上擦っていた。泣き続ける子供の背中に回した手が、小刻みに震えている。 「大丈夫……大丈夫よ……貴方は大丈夫……」 まるで呪文でも唱えるかのように女性は呟き続けている。 その言葉は、泣く子供にではなく、自分自身に言い聞かせているようだった。
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