ハロウィンの雨

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隣からカチカチと必死な音が聞こえる。 今日はハロウィンで雨だ。 バイトの帰り、軒先に飾られたカボチャが虚しく濡れている。 僕みたいに。 隣に女の子。 高校二年生の女の子。 黒い艶やかなセミロングに、穏やかな奥二重の瞳。 僕は今、傘を差し、隣に君を入れて歩いていた。 いわゆる相合い傘。 なのに君と来たら、携帯電話を必死にカチカチといじっている。 仕方ない、か。 彼女の名前は通称ナミ。 下の名前しか知らないのは、バイト先でそう呼ばれているのを聞いただけだから。 ちなみに僕の名前は河井慎次郎。 ナミは僕のことをシンと呼ぶ。 でも、決して付き合ってはいない。 彼女には今、彼氏がいるのだ。 「はぁ、こうちゃん遅いなぁ」 ぼんやりと呟かれた言葉が痛い。 こうちゃん、とは彼氏のことで。 隣には僕がいるのに。 こんなに近くにいるのに。 ああ、あのカボチャのように僕も泣きたい。 でもね、僕は知っているんだ。 そのこうちゃんは、今他の女の子と会っている。 同じバイト先の先輩で、悪い噂が絶えない。 偶然、僕は聞いてしまった。 『じゃあ、明日ナミがバイトだから、会えるよ』 『ほんとう。嬉しい』 先輩の目の前にいた女の子は、最近入ってきたばかりの、僕らよりいっこ下の高校一年生。 くりんとした大きな瞳と、金髪が特徴的だった。
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