序 旅情は出会い

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長い長い旅だった。 春は桜の花が散り舞うのを背に、夏は熱い日差しを浴びながら、秋は熟れゆく葉が落ち行くのを背に、冬は雪の寒さに身を凍えさせながら、僕らは足を止めずに歩いた。 ただひたすらに、歩いた。いつか見つかる僕らの居場所。 親も友達も、僕らには何もなかった。 兄弟二匹、僕らはいつも一緒だった。 だから、僕らはいつも二匹で寄り添って生きてきた。二匹でも楽しく、ひなたぼっこしたり、ご飯を捕りに出掛けたり、お互いに体をよせあって温めたり。 でも気が付いたら、僕らの世界が突然なくなった。 だから、僕らは歩くしかなかった。 ひたすらに見つけるまで。もう足は傷だらけで、ご飯も食べることもなく、僕らはもう限界にきていた。 「金兄。僕もう、歩けないよ。」 「頑張れ。銀。もうすぐ見つかるはずだ。」 「うん。わかったよ。もう少し頑張る。」 励ましながら歩き続けた。でも、その日は猛吹雪の夜だった。目の前は真っ白くて、足元の雪は深く、眠さに襲われ始める。 あと一歩、あと一歩。 あの曲がり角をまがったら。 僕らの意識が遠退く。 薄明かりが見えていた。 ふわっと体が浮き上がる。温かい心地。 「もう大丈夫だよ。」 優しい心地よい声。 その声が僕らを安堵させた。抱き抱えられ、温かな場所に身を委ねた。
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