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気が付けば、彼は深い霧の中に立っていた。 自分の足元ですら、白い霧に覆われていて、何があるのかもわからない。 辺り一面は真っ白で、ぼんやりとした明るさの中、そこに在る物は、霧と彼と彼の寄り掛かっている枯れ木。 いったい、どうしたのか? 彼は霧が晴れるのを待ちながら、ここまで来た道を思い出す。 別に、大した意味もなく、ただ彼は歩いていただけだった。 明るいけれど小さな町を出て、てくてくと歩いている内に、少しずつ霧に飲まれていっただけだった。 小休止のつもりで枯れ木によりかかっていたら、何時の間にかこうなっていた。 足元も見えず、右も左もわからない。 白い闇。 静寂。 一歩踏み出せば、奈落へと導かれるような錯覚。 一歩下がれば、沼に足をとられるかのような妄想。 動かない彼の体。 静止。 踏み出さないのは、見えないことの恐怖から。 踏み出せないのは、立ち向かえる勇気を持ち合わせていないから。 勇気を持ち合わせていないのは、無謀と言う名の恥を恐れるから。 恥を恐れるのは、傷つきたくないから。 傷つきたくないから、逃げ出した。 今も、この場から逃げ出したい。 わからないから、 見えないから、 何が待っているのか、 はたまた、何も無いのか、 あるいは、、、 それすらが、彼には恐い。 幸せが待っていようと、 不幸が待っていようと、 どちらも受けとめる自信が、彼にはない。 逃げ出した彼は、 ぶらぶらと歩いていた彼は、 託つけて町から逃げ出していた彼は、 もう、今となってはどこへも逃げることは出来ない。 この白い霧の中で、困惑し、苦悩し、恐れ、苦しみ、発狂しようとも、 これ以上は、逃げるとこなど無い。 もし、仮にも、これ以上いくのであれば、 もはや彼に身体は必要ない。 もしくは、彼の心は必要ない。 あっても、邪魔なだけ。
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