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霧は濃さを増す。
彼は動かない。
しだいに服は湿り始め、重さを増していく。
不安が彼を震わせる。
恐怖が彼を竦ませる。
勇気はそれらに押し負け、彼は枯れ木にもたれかかる。
その枯れ木も、いつまであるのかわからないのに。
その枯れ木の後ろには、彼が想像する様な奈落が口を開けているのに。
一歩踏み出せば、足元が見えるのに。
さらに歩けば、道が街まで続いていて、もう霧は晴れかけているのに。
一歩踏み出せず、彼は立ちすくむ。
一歩の勇気が、彼のこの後を左右している。
枯れ木は、いつか朽ち果てるだろう。
それまでに、彼はそこから離れられるのか、
否か、
それは彼の意志。
もう逃げる場所は無い。
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