星空を飛ぶこと

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ビルの上、俯瞰の景観、街は光に満ち溢れ、人の創りだした光は星の明かりを遮る。まるで、天地が引っ繰り返ったかの様な景色。色とりどりの光は、暗い空を彩る星の瞬きの様。 そう考えるなら、一際輝き、空に浮かぶ月は何なのだろう? 闇に穿たれた、一つの明かりなのか? 闇に空いた、大きな穴なのだろうか? 異界への門。 それとも、そこがもはや異界なのか…。 少年は、一人物思いに耽っていた。 最期に、ビルの上から見えるこの景色を、疑問に思ってしまったから。 少年は一人佇む。誰もいないビルの屋上で。落ちれば、人の体など原型をとどめることなどできない高さのビルの淵に座って。 少年の後ろ、淵より一段下に、彼の靴、その中に、彼が自ら書いた遺書を含んで。 少年は思う、何故死のうと思ったのかと。 何故遺書まで書いて、人気の無くなった夜の街、その中で最も高いビルに来ているのか。 理由は簡単なことだ。 彼の出した結論が、死であっただけのこと。 彼の意志が、そこで途切れたいと願っただけのこと。 別に、少年は不自由をしているわけではない。 家族もいる。 友達もいる。 異性との関係が無いわけでもない。 イジメられているわけでもない。 人との関係が上手くいかないわけでもない。 しかし、少年は死を選ぶ。 そこに意味はあるのだろうか? 少年は再び考える。 何故、死を選ぶのかを。 ここから、何の抵抗も無しに落下し、朱色の肉片になりさがるかを。 答えは、そう簡単には出ない。 死を望んでいるわけではないから。
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